レポート

政府が、民間企業・非営利組織など外部の主体との協力、契約などの関係を用いて行政サービスを提供している事例としては、長野県伊那市のドローン物流事業プロジェクトが挙げられる。※1

このプロジェクトは、「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」と、「INAドローンアクア・スカイウェイ事業」という2つの事業で構成されたものである。

「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」は、長野県伊那市KDDI株式会社による連携のもので、中山間地域で高齢者を中心に買い物が困難な人が増えているという問題に対して、KDDIの先端技術である「スマートドローンプラットフォーム」を基幹として、国内初の自治体運営によるドローン配送事業である「ゆうあいマーケット」を実用化した。注文した品物が長距離自立飛行型ドローンで近隣の公民館またはボランティアの人によって配達され、最短で当日中に品物が届くといったサービスとなっている。※2

「INAドローンアクア・スカイウェイ事業」の方は、株式会社ゼンリンとの連携で行われており、株式会社ゼンリンは地図情報分野において多大な知見を有する。その株式会社ゼンリンの「空の三次元地図」をベースに伊那市の南北に流れる天竜川や、東西に流れる三峰川の上空域をドローンの長距離幹線航路として、中心市街地と中山間地域等を繋ぐサプライチェーンの形成を目指して行われているものである。※1

その後も似たような事例として、同じく伊那市中央アルプス南アルプスにおいて、大ペイロード無人VTOL(垂直離着陸)機を使った「物資輸送プラットフォーム構築プロジェクト」がある。※3

このプロジェクトは川崎重工業伊那市からの委託を受けて参画されており、事業の取りまとめは機体の開発を行った。また、このプロジェクトは川崎重工業以外にも上記の2つのプロジェクトに参加したKDDI株式会社と株式会社ゼンリンも協力した。※3

このプロジェクトは近年のアウトドアブームが背景にあり、山小屋の利用者人口の増加によって安定的な物資輸送が求められた。山小屋への物資輸送は従来ではヘリコプターに頼っていたが、送電線工事や公共事業の増加、パイロット不足等によって機体の確保が難しくなっており、全国では多くの山小屋が影響を受けていた。しかし、「物資輸送プラットフォーム構築プロジェクト」は、山岳特有の気象状況に適応して、長い距離と大きな標高差を安定して飛行することができる、川崎重工業が開発している無人VTOL機を活用することによって、山荘への物資輸送のための固定空路を構築し、各種ステークホルダーとの調整や法令に基づく許認可等の手続きを行って、将来にわたって持続可能で効率的な輸送スキームを構築することが可能になる。このスキームは、汎用性・拡張性を持たせることで全国への展開が可能であり、同じような課題を抱える自治体や関係団体等の課題を解決することが可能になり、山岳部物資輸送事業の安定的な運営の基盤を確立することも望める。※3

最初に取り上げたドローン物流事業プロジェクトは、事業として成功していると私は考えている。

その理由としては、「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」の方は、KDDI株式会社との連携で行われているサービス「ゆうあいマーケット」のシステムとプロジェクトのターゲットである層のニーズとマッチしている点である。「ゆうあいマーケット」は、利用者が自宅のケーブルテレビのリモコンか電話で商品を注文することで商品を受け取ることが出来る。※4スマホやパソコンなどで注文するネット通販よりも高齢者が使いやすいサービスになっており、高齢者を中心とした山間地域の買い物が難しい層という最初の目的と完全にマッチしている。

また、ドローンで最寄りの公民館などに運んだ後はボランティアの人々によって住民の元へ届けられるため、受け取り時のトラブルも起こりにくく、高齢者の安否確認も行えるため、住民幸福度の向上にも繋がっている。

連携している企業がKDDI株式会社である点もドローンを利用するというシステムと噛み合っている。KDDI株式会社なら自社の通信ネットワークシステムを有しているため、自社のLTEで目視外の自律飛行を実現可能であるという部分も他には無い強みであり、上手く噛み合っていると考えている。

その他のメリットの一例として、ドローンの飛行ルートは法的な制限を受けるため、可能な限り市内の河川上空を飛行する計画が立てられたが、河川を管理している国土交通省に許可を得ることによって、国土交通省にもメリットが存在することがあった。それはドローンに搭載したカメラ映像を災害時に提供したり、日常的な河川のパトロールに活用したりすることによって、ドローンを運営する側と国土交通省側と双方にメリットが生まれる。※4

高齢者も家で買い物ができることによって人との接触を最低限に抑えることもでき、新型コロナウイルス感染予防にもなり、時代にマッチしたシステムであると言える。

ドローン物流事業プロジェクトのもう1つの形である「INAドローンアクア・スカイウェイ事業」では、高精度の3D地図データを活用して河川上空にドローン専用の空路とした空の道を形成することによって、建物や障害物のない河川上空でのルート生成で、ドローンの安全かつ長距離の飛行を支援することを可能にしている。※5実際にこの「INAドローンアクア・スカイウェイ事業」による空の道の効果により、10km以上の長距離飛行が実現され、ドローンによる配送サービスを利用出来る地区が増えている。

この「空飛ぶデリバリーサービス構築事業」と「INAドローンアクア・スカイウェイ事業」の2つによって構成されたドローン物流事業プロジェクトは伊那市に住んでいる人の暮らしに豊かさをもたらしていると考える。

上に挙げた「物資輸送プラットフォーム構築プロジェクト」が行われているのもドローン物流事業プロジェクトが成功していると考える理由の1つである。

ドローン物流事業プロジェクトはいわゆる官民連携と言われるものである。官民連携のメリットとしては、リスクの移転など様々あるが、もちろんデメリットも存在する。デメリットの1つとして、民間企業に幅広い業務を任せることになるため、行政や自治体が普通以上に業務状況を把握して、管理や指導をしなければ公共サービスの品質の低下を招く可能性がある。

また、業務を企業に委託する際に、価格以外にも企業の持つノウハウや事業計画の内容も評価する対象に入るため、事前の手続きに必要な業務が増え時間も必要になる。※6

しかし、ドローン物流事業プロジェクトは上にも挙げたように自社の通信ネットワークシステムを持ち、完成度の高いノウハウを持つKDDI株式会社や地図情報分野に関して多くの知識を持つ株式会社ゼンリンとの連携を行っているため、上記のデメリットをある程度緩和出来ていると考えられる。

官民連携の失敗した事例の1つとして、名古屋港イタリア村がある。

名古屋港イタリア村はイタリアをテーマにした飲食や物販施設の需要が見込みを大幅に下回り経営が破綻してしまったケースである。

愛知万博に合わせて開業したが、愛知万博が終了すると初年度の入場数の半数以下になってしまっていた。※7

この失敗例と言われている名古屋港イタリア村と私が成功していると考えるドローン物流事業プロジェクトの2つの事業を比較すると、大きな違いが見て取れる。

1つ目の違いとして、需要の見込みの正確性である。名古屋港イタリア村は思ったよりも需要が無かったため経営が立ち行かなくなった。これは見込みの段階が甘かったとも言える。これに対してドローン物流事業プロジェクトは起きている問題に対する解答として立ち上げられたプロジェクトであり、利用する人の層やどういったサービスならば問題解決できるかといった点の需要の把握が出来ていたため成功していると考えている。

2つ目の違いとしては、当初の目的以外のメリットの存在である。名古屋港イタリア村は集客による経済効果を狙ったものであり、それ以外での活用法は存在しない。需要が無ければそれまでのものである。しかしドローン物流事業プロジェクトは上で述べたような国土交通省との連携による双方にメリットのある部分も存在する上にドローンという技術を活かす術を研究し全国的に使えるサービスにすることも想定されている。

もちろんこの2つのプロジェクトは作られた時代もサービス形態も全く異なるため、一概に比較して善し悪しを決めることは出来ないが、ドローン物流事業プロジェクトは名古屋港イタリア村のような失敗例から学習した結果の1つと呼べる。

以上の理由から私は長野県伊那市のドローン物流事業プロジェクトは行政が民間企業との協力で行ってる行政サービスの事例として成功していると考える。

 

1.日本初! 河川上空を幹線航路とする新たなドローン物流システム構築と、官民協働によるサプライチェーン形成を組み合わせた物流の事業化に向け、伊那市が実証をスタート

https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/dronekatuyou/20180831084207979.html  2023年1月22日最終閲覧

2.官民連携とは?代表的なプラットフォームと取り組み事例を紹介

https://www.hrpro.co.jp/miraii/post-1118/

2023年1月22日最終閲覧

3.長野県伊那市無人VTOL機による物資輸送プラットフォーム構築事業を開始

https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1183779.html

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4.ドローン物流 自治体事例「ゆうあいマーケット」(長野県伊那市

https://kddi.smartdrone.co.jp/solution/case/case-001.html

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5.~河川上空を“空の道”とした、10km以上の長距離ドローン配送サービスを開始~ 自治体運営による長距離ドローン配送サービスを 高精度な3D地図により実現
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000067172.html

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6.PFI導入による効果

https://www8.cao.go.jp/pfi/pfi_jouhou/tebiki/kiso/kiso02_01.html#:~:text=PFI%E5%B0%8E%E5%85%A5%E3%81%AE%E3%83%87%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AF,%E3%81%AF%E7%95%99%E6%84%8F%E3%81%8C%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

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7.トラブル事例にみる
わが国 PPP/PFI 実施上のポイント

生田美樹

https://www.jeri.or.jp/membership/pdf/research/research_2007_01.pdf

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